1度きりの相続放棄申請|期限や不備に注意!
相続放棄をしたいけど、何に気をつけていいかわからない、こんな方は多いのではないでしょうか。
実は、相続放棄は気をつけなければならない注意点が様々あります。
この記事では、そんな相続放棄の注意点を中心に解説し、士業事務所のセカンドオピニオンついてもご紹介します。
注意点の前にまずは、相続放棄について簡単にご説明します。
相続放棄とは、相続人が故人の遺した財産の相続を放棄することです。
放棄の対象となるのは被相続人のすべての財産です。現預金や不動産、債権といったプラスの財産だけでなく借金やローン、未払債務などのマイナスの財産も含みます。
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も、どちらも相続人が承継することはありません。
法律上は、「初めから相続人とならなかったものとみなす」とされており、その結果、全ての遺産を放棄することができるということになっています。
相続放棄の手続きには、期限があります。相続開始(被相続人の死亡)があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の手続きを行い、受理される必要があります。
《参考:【相続放棄とは】どのような場合にする手続き?判断基準は ➜ 》
【目次】
1. 相続放棄の申請で気をつけることは?
(1) チャンスは一度きり!
借金を相続しない為の手続きとして重要な相続放棄の申立て手続きは、「自身に相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません。
一般的には、「故人が亡くなったことを知ってから」3ヶ月となるケースが多いとされています。
また、相続放棄の申請はたった一度きりのチャンスです。
内容等に不備があり、家庭裁判所に申請を却下されてしまった場合、2週間以内に高等裁判所に再審理を求めて「即時抗告」を行うことは認められていますが、結果を覆す事はなかなか難しく、また、家庭裁判所に改めて再申請を行うことは認められていません。
もし相続放棄が失敗に終わってしまったら、法定相続分に応じた全ての借金を責任を持って負わなければならないのです。
相続放棄は、自身で申請を行うことも可能ではありますが、面倒であるだけでなく、上記のように内容に間違いがあると取り返しのつかないことになってしまいます。
そして、このように自分で取り組んだものの申請が却下されてしまった、という例は決して少なくありません。
その為、当事務所は相続放棄を申請する際には、相続放棄の専門家に一度ご相談されることを強くお勧めいたします。
<参考:相続放棄の手続き方法|申請期限や流れなど詳しく解説>
(2) 3ヶ月の期限を超えた場合は非常に困難!
相続放棄は、原則として3ヶ月以内に家庭裁判所に申請しなければならないと規定されていますが、期限を越えてしまった場合でも、例外的に相続放棄申請が認められることがあります。
しかしながら、この期限越えの相続放棄は、相続の専門家である司法書士であったとしても、避けてしまうことが多いくらい非常に難易度の高いものです。
相続の専門家である司法書士ですら、そのような状況ですので、相続の知識が少ない皆様が手続きを行った場合に、相続放棄申請が通ることは極めて稀なケースといわざるを得ません。
よって、3ヶ月の期限を越えた相続放棄は、依頼する専門家を慎重に選ぶ必要があるのです。
万が一、申請が認められなかった場合には、全ての負債を背負わなければならないことは肝に銘じておかなければなりません。
当事務所は、相続放棄の専門事務所として、これまで年間3000件程度の相続放棄に関する問い合わせをいただき、数多くの困難な事案を解決してまいりました。
特に、3ヶ月の期限を越えた相続放棄は、全てのご相談の中でも半分以上を占めるなど、期限を越えた相続放棄の解決実績も多数あり、また、その受理率は99.9%となっています。
相続放棄に関してお悩みの方は、一度お気軽に相続放棄の専門家である私どもに、是非ご相談ください。
(3) 相続財産を処分してはダメ!
相続放棄をするのであれば、相続財産には一切手をつけてはいけません。
相続財産の一部でも自ら取得・処分等をした場合、相続の単純承認したものと見なされてしまいます。これを法定単純承認といいます。
相続人がもし相続放棄をするのであれば、相続財産を自由に処分することはできないはずです。それにもかかわらず相続人が処分行為を行ったということは、その相続財産を自分のものとするという意思があったと推認されます。
そのため、相続財産を取得・処分等をした場合、今さら相続放棄は認められないということになってしまうのです。
家屋や車の名義変更なども処分行為に当たります。
安易にしてしまわないように注意が必要です。
故人に多額の借金や負債があった場合、相続財産を処分してしまうことで、もはや相続放棄をすることはできなくなり、高額な借金を背負うことになってしまうかもしれません。
この点は、十分に注意する必要があります。
なお、亡くなった方の形見分けなど、それほど価値の高くないものを一般的に認められる範囲で処分した場合には、相続放棄できなくなるようなことはありません。
心配な場合は、事前に専門家に相談をしてから処分をするようにしましょう。
(4) 一度受理された相続放棄は、取消・撤回できない!
相続放棄の申述が受理されたものの、後になってから、実はプラスの財産の方が多かったので「やっぱり相続したい」といったように相続放棄の取消・撤回をしたくなることがあるかもしれません。
ですが、一度相続放棄をしてしまうと、基本的に相続放棄の取消・撤回をすることはできません。ほとんど不可能です。
やり直しがきかないため、本当に相続放棄をするべきか、じっくり検討してから手続きをするようにしましょう。
不明な点があったり、悩んでいたりする場合には事前に専門家からアドバイスを受けるのも選択肢のひとつです。
トラブルが起こってからではなく、トラブルが起こる前に専門家を利用しましょう。
なお、以下に該当する場合は相続放棄の取り消しができることがあります。
○ | 詐欺や脅迫によって無理やり相続放棄させられた場合 |
○ | 未成年者が法定代理人の同意なく相続放棄をした場合 |
○ | 成年被後見人が自分一人で相続放棄をした場合 |
○ | 被保佐人が保佐人の同意なく相続放棄した場合 |
○ | 相続放棄を補助人の同意が必要な行為と定めている場合に、その同意なく相続放棄した場合 |
(5) 背信行為をしたら相続放棄ができない!
相続人に背信的行為があった場合、相続放棄は認められません。
既に相続放棄申述が受理されていた場合であっても、その相続放棄は取り消され、相続人は単純承認をしたものとみなされてしまいます。
相続財産を隠して消費したり、悪意をもって相続財産の目録に記載しなかったりする場合などは背信行為となります。
せっかく借金や負債の相続から逃れようと相続放棄の手続きをしても、背信行為をしたばっかりに相続放棄が無効となり、借金を背負ってしまうことになりかねません。
なるべく自分が得をするように相続したいという人は多いかと思います。
しかし、正しい手続きを行った上で遺産相続をする必要がありますので、不正は決して行わないようにしましょう。
※背信行為とは※
さて、背信行為といってもどんな行為が該当するか気になりますよね。
具体的には以下の行為が該当します。
① 隠匿
容易に相続財産の存在をわからないようにしてしまうこと
② 私的な消費
相続債権者の不利益になることを承知のうえで、相続財産を消費すること
③ 悪意の財産目録への不記載
相続債権者を詐害する意思をもって、相続財産を財産目録に記載しないこと
相続放棄の背信行為については例外事項なども多いので、複雑なケースや判断が難しい事例は司法書士や弁護士などの専門家への相談がおすすめです。
(6) 相続放棄は他の相続人にも影響を与える!
相続放棄をすると、他の相続人、つまり親族に以下のような影響を与えます。
①他の相続人の相続割合が増える
自身が相続放棄をし、法律上「初めから相続人ではなかった」とあつかわれる結果、他の相続人の法定相続分が増えることとなります。プラスならまだしも借金などのマイナスの財産の取り分も増えるのです。
②相続人全員が相続放棄した場合、相続人でなかった人が相続人になる
相続人になる親族には順番があり、下記のとおりとなっています。
1 | 配偶者(常に相続人) |
2 | 子供(第1順位) |
3 | 親などの直系尊属(第2順位) |
4 | 兄弟(第3順位) |
例えば、もし故人の子供全員が相続放棄をすると、第1順位の相続人が「初めからいない」と扱われるため、自動的に次の順位の相続人が繰り上がって相続人となります。
相続放棄は他の相続人に関係なく、単独で行うことができる手続きです。
ですが、そのことをきっかけに自動的に相続人となってしまった後順位の相続人と後にトラブルに発展してしまう可能性もあります。
ご自身が相続放棄をして借金から逃れられたとしても、、他の相続人も相続放棄をしないと、他の相続人は借金を背負ってしまいます。
ご自身が相続放棄をすることで、相続の権利が次の相続人に移り次の相続人が知らないうちに借金を背負ってしまうこともあるのです。
自分が相続人になったことを突然知って驚き、当センターにご相談に来られる方も多数いらっしゃいます。
新たな相続人となった方も相続放棄をしたいと思っているかもしれません。
相続人となったことをよく理解されず、そのまま3ヶ月が経過すると相続放棄をすることが難しくなってしまいます。
そのため、相続放棄をするのであれば、他の法定相続人にも相続放棄をするということを必ず伝えるようにしましょう。
また、もしご自身で説明することが難しく感じるようでしたら当センターのような専門機関にお願いして代わりに説明してもらうことも検討しましょう。
(7) 一筆書いただけではダメ!
相続放棄は家庭裁判所にて行う手続きです。
口頭で「相続放棄します!」と宣言しただけではもちろんダメです。
書面に「相続放棄します。財産は一切受け取りません」といった念書を一筆書いたとしても同様です。
相続放棄をしたことにはなりません。
家庭裁判所で正式な手続きを踏んだもの以外は相続放棄の法的効果が生じることはありません。
また、遺産分割協議書に「遺産・借金を相続しない」といった内容を記載し、署名押印した場合でも、相続放棄とは効果が異なります。
相続放棄をした場合は借金を含めた遺産の一切を相続せずに済みます。
それに対して、遺産分割協議書で「遺産・借金を相続しない」とした場合には、プラスの財産はもちろん相続しませんが、借金は債権者の同意がいるため正式に放棄できておらず、法定相続分の範囲内で請求されてしまうので注意が必要です。
「相続放棄します」「1円も受け取りません」などの内容を一筆書いたので、相続放棄をしたつもりになっているケースはよくあります。
後からトラブルにならないよう、事前に正しい知識をもって対応することが大切です。
判断が難しい場合は、専門家に相談をするのがおすすめです。
(8) 全ての遺産を相続放棄しなければならない!
相続放棄の手続きをすると、全ての遺産を相続放棄しなければなりません。
土地や建物などの不動産や株式、預金などのプラスの遺産も一切相続できなくなります。
借金や負債だけを放棄したくなってしまいますが、そういった「おいしいとこ取り」の相続はできないことになっています。
一部の遺産だけを相続したい場合には、限定承認という手段も有効です。
限定承認とは、プラスの財産とマイナスの財産があった場合に、プラスの財産分を限度としてマイナスの財産も相続し、それ以上のマイナスの財産は相続しない方法です。
どうしても思い入れのある家だけは手元に残したい場合や、債務が超過しているかどうかはっきりしない場合などに有効です。
なお、限定承認は相続人全員で家裁裁判所に申請が必要となります。
《参考:相続放棄と限定承認の違い 》
(9) 相続放棄しても受け取れるお金もある!
相続放棄をすると、遺産は一切相続することができません。
しかし、相続放棄をしても、死亡保険金(遺族を受取人に指定している場合)、遺族年金、弔慰金、死亡退職金などは法律上、相続財産ではなく遺族固有の権利とされており、ほとんどのケースにおいて受け取ることが可能です。
このほかにも、遺族が受け取る金銭で相続財産とされていないものは数多くあるのです。
ただし、勝手に判断して受け取った結果、万が一それが相続財産であった場合には、単純承認したとみなされて相続放棄が出来なくなってしまうため、どのようなものが相続放棄しても受け取ることができるのかについては必ず当センターのような相続放棄の専門家に相談されることをおすすめいたします。
(10) 生前に相続放棄はできない!
被相続人が亡くなる前に、相続放棄をすることはできません。
相続放棄はあくまで相続開始後、「自身に相続が開始したことを知ってから」3ヶ月の熟慮期間内に、家庭裁判所に対する申立てによって行うものです。
2. 他の事務所に断られたら諦めるしかないの?
相続放棄は関わった件数などの経験値によって結果が左右する手続きです。どこかの事務所で「相続放棄できない」と断られた場合でも、諦めずにその他の専門性の高い事務所に『セカンドオピニオン』として一度ご相談をしてみることをおすすめいたします。
相続放棄が困難な事案であっても、相続放棄を専門にしている事務所に相談することで、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
諦めずにまずは相続放棄を専門とする事務所にご相談ください。
以下は、ぜひ専門性の高い事務所に相談して欲しいケースを例示いたします。
(1) 預貯金の解約をしてしまった
銀行預金を解約したからといって、それだけで相続放棄ができなくなるということはありません。
既に預金を解約している場合は、そのお金には手を付けないようにしましょう。
お金がそのままの状態で保管されていれば、相続放棄が認められる可能性はあります。
しかし、一部でも使い込んでしまった場合には「相続財産の処分」をしたことになり、以後、相続放棄は認められなくなってしまいます。
なお、例外として、故人の葬儀費用の支払いのためである場合は、預金を解約して使用しても「相続財産の処分」に該当しないとされています。
《参考:【相続放棄と預金の利用】財産の処分をしてはならない ➜ 》
ご自身で判断せず、まずはご相談ください。
(2) 遺産分割協議書に押印してしまった
遺産分割協議に参加して、協議書に署名押印をしてしまうと、自分が相続人であるということを認めたことになってしまいます。
ですので、原則的には相続放棄をすることができません。
残念ながら、知らなかったでは許されないことも法律の世界では多いです。
しかし、ケースによっては相続放棄ができる可能性はあります。
過去の判例では、遺産分割協議後に多額の借金の存在を知り、相続放棄しようとした事例で、遺産分割協議が要素の錯誤により無効、法定単純承認の効果も発生していないとしたケースも存在します。
《参考:遺産分割協議と相続放棄|違いについて詳しく解説! ➜ 》
3. 相続放棄を専門家に依頼するケースの流れはどうなるのか
(1) 様々な士業事務所で無料面談を行う
相談料が有料の事務所もありますが、初回相談は無料の事務所も多くあります。
まずは、相続放棄について無料相談を実施している士業事務所に面談を申し込むのがおすすめです。
相続放棄の手続きは、弁護士や司法書士に依頼できます。
どちらに依頼しても手続きは大きく変わりません。弁護士だから一概に有利というわけではないのです。
何度も言いますが、相続放棄は関わった件数などの経験値によって結果が左右する手続きです。
したがって、その事務所が相続放棄を専門としているか、過去に多くの件数を経験しているかなどを判断の基準としましょう。
また、一部の相続人は放棄せず相続するケースなどであれば司法書士への依頼がおすすめです。
司法書士は、相続人の調査や遺産分割協議書の作成、不動産の相続登記、預貯金・有価証券の名義変更手続きなど、相続に必要なほとんどの手続きに対応することができます。
費用も弁護士より安く済ませることができ、コスパよく手間や時間も省けます。
(2) 金額よりも実績のある事務所を選ぶ
弁護士や司法書士といっても、その業務の対応の幅や業務レベルは事務所によって様々です。
単純に金額だけで比較するのではなく、相続問題に実績のある専門家を選ぶことが大切です。
特に、期限を過ぎてしまってからの相続放棄手続きなど、高難易度だったり、複雑な手続きだったりする場合はノウハウのある事務所でなければなりません。
相続放棄は失敗が許されない手続きです。
相続放棄を申述して、家庭裁判所に却下されてしまった場合、よほどの理由がない限りその結果を覆すことはできません。
相続を専門外としている事務所に依頼をすると、望まない結果になってしまうこともあるので注意しましょう。
チャンスは一度きりですので、豊富な経験と実績・ノウハウのある事務所がおすすめです。
まとめ
- 相続放棄のチャンスは一度きりです。却下が確定した後に再申請は原則できません。
- 3ヶ月の期限を超えた相続放棄は非常に困難です。実績のある専門家に相談しましょう。
- 相続放棄をするなら、相続財産を処分してはいけません。相続の単純承認をしたとみなされてしまいます。何が処分に該当するかは高度な判断を伴いますので注意が必要です。
- 相続放棄は、取消・撤回できません。本当に相続放棄をするべきなのか、事前によく吟味する必要があります。
- 背信行為をしたら相続放棄ができません。一度受理された後であっても、取り消されます。
- 相続放棄は他の相続人にも影響を与えてしまいます。相続放棄をする旨を、親族に伝えるようにしましょう。
- 一筆書いただけでは相続放棄できません。誤解している人が意外に多いです。
- 相続放棄しても受け取れるお金もあります。忘れず請求・受給申請をしましょう。ただし、受け取ってしまったお金が万が一相続財産だった場合には、相続放棄ができなくなってしまうため、判断は慎重に行いましょう。
上記のように、相続放棄は注意点が多い法律行為です。
専門家ではない人だけで判断をすると、多額の債務を承継してしまうような、重大な事態に発展してしまうかもしれません。
相続で悩んでいる方はぜひ一度、専門性の高い専門家のアドバイスを受けることを強くおすすめいたします。