相続放棄と相続人の順位|相続人の範囲と手続きを進める手順とは
亡くなった親や親族が多額の借金を抱えていた、なんていうことは決して珍しいことではありません。
そんな親族の借金を相続しないためには、相続人自身が相続放棄をする必要があります。
そのため、相続人が誰か、というのは重要なポイントになってきます。
また、相続人のうちの誰かが相続放棄をすると、次順位である別の親族が相続人となってしまうケースもあります。
この記事では、誰が、どうなった場合に相続人となるのか、相続順位や相続放棄をした場合の次順位の親族への影響を解説いたします。
相続放棄を行うことで、相続人が遺した借金も含めた全ての財産を相続せずにすみます。
しかし、相続放棄の手続きには相続があったことを知った日から3ヶ月という期限があります。
原則、この期限内に手続きをしなければ、借金を相続することになってしまいます。
親族が亡くなり、心身の負担が大きい中、慣れない手続き作業をするのは大変です。
なるべく早く専門家に相談されることをおすすめします。
1.相続の順位とは?
相続順位とは、亡くなった人の財産を誰が相続することになるかを定めた優先順位のことです。
この優先順位は民法によって定められています。
相続が発生した場合に、どの立場の人がどのような順番で相続人になるのかという相続人の範囲のほか、その相続割合(法定相続分)についても民法で規定されています。
相続人の優先順位を表にまとめました。
先順位の相続人が存在しない場合(または全員が相続放棄をした場合)でなければ、後順位の親族に相続権は移りません。
相続順位 | 亡くなった人との関係 | |
---|---|---|
常に相続人 | 配偶者 | 民法890条 |
第1順位 | 子や孫などの直系卑属 | 民法887条 |
第2順位 | 親や祖父母などの直系尊属 | 民法889条1項1号 |
第3順位 | 兄弟姉妹または代襲相続人(甥・姪) | 民法889条1項2号、2項 |
相続人になれるのは被相続人と一定の身分関係がある人に限られます。
親族が亡くなり、遺産相続が始まった場合、まずは相続人になれる人が誰なのかを知ることが大切です。
(1)確実に相続人になるケース
・配偶者の死亡
被相続人の配偶者(法律上の夫や妻)は、必ず法定相続人になります。
血族相続人のうち一番順位の高いグループの相続人と共に相続するのが原則です。
・親の死亡(第1順位)
被相続人の子は、実子・養子、嫡出子・非嫡出子の区別なく、全て相続人となります。
また、胎児も相続権を有するとされています。
子が複数いる場合には、第1順位の権利を等分して分け合います。
第1順位の相続人が1人でも存在する場合には、次の順位の相続人に相続権は与えられません。
もし、被相続人の子が被相続人よりも前に死亡している場合、その子(被相続人の孫)が代わりに相続人となります。これを「代襲相続」といいます。
代襲相続が発生する場合には、この代襲相続人も第1順位の相続人として数えられることになります。第2順位以下の相続人に相続権が与えられることはありません。
(2)場合によって相続人になるケース
・子供の死亡(第2順位)
被相続人に子(またはその代襲者)がいない場合は、親や祖父母などの直系尊属が相続人になります。
・兄弟姉妹の死亡(第3順位)
被相続人の直系卑属(子や孫)、直系尊属(両親や祖父母)がいなければ、第3順位である兄弟姉妹が相続人となります。
・祖父母の死亡(第1順位の代襲相続人)
被相続人の子が死亡している場合などは、代わりに孫が相続することができます。
・おじ・おば(父母の兄弟姉妹)の死亡(第3順位の代襲相続人)
一定の条件が揃った際、甥や姪が相続人となるケースもあります。
第1順位、第2順位の相続人が存在せず、第3順位である被相続人の兄弟姉妹(甥・姪にとっての親)が亡くなっており代襲相続が発生する場合です。
なお、甥や姪までは代襲相続権が認められていますが、甥や姪の子の再代襲相続は認められていません。
2.相続放棄はどこまで続くのか
相続放棄をすると、次の相続順位の人に相続権が移ります。
例えば、第1順位の相続人が全員相続放棄をした場合には、第2順位に相続権が移ります。
第2順位の相続人も全員相続放棄をした場合は第3順位に相続権が移ります。
以下に、具体的に例示します。
(1)配偶者が相続放棄をした場合
配偶者が相続放棄をした場合、配偶者以外の法定相続人が遺産を相続します。
配偶者は常に法定相続人であり、相続順位には影響がないため、相続権が他の方に移ることはありません。
(2)子供が相続放棄をした場合
第1順位である子供(既に亡くなっている場合は、孫など直系卑属)の全員が相続放棄をすると、第2順位の親や祖父母(直系尊属)に相続権が移ります。
なお、相続放棄の場合、代襲相続は発生しないので子が相続放棄をしても孫は相続権を取得しません。
(3)親が相続放棄をした場合
親が相続放棄をすると、祖父母やその上の世代の直系尊属の誰かが存命の場合はその人に相続権が移ります。
直系尊属の全員が相続放棄をすると、第3順位の兄弟姉妹(亡くなっている場合はその子供)に相続権が移ります。
(4)兄弟姉妹が相続放棄をした場合
兄弟姉妹(既に亡くなっている場合は甥・姪)の全員が相続放棄をしても、これ以上、相続権は移りません。
兄弟姉妹よりも後順位の相続人はいないためです。
なお、相続放棄の場合、代襲相続は発生しないので兄弟姉妹が相続放棄をしても甥や姪は相続権を取得しません。
上記のように、相続放棄が続く範囲は、兄弟姉妹(場合によってはその代襲者である甥・姪)まで、ということになります。
借金などの負債を相続しないためには、その範囲まで相続放棄の手続が必要となります。
ご自身が相続放棄をすることによって、次は誰に相続権が移るのか、把握しておくことはとても重要です。
相続放棄には3ヶ月という期限がありますので、知らないうちに相続権を取得していた場合、相続放棄手続きが間に合わなくなってしまうこともあります。
最悪の場合、次の相続順位のひとが借金を相続して悲惨な目にあってしまうかもしれません。
親族同士の連携がとても大切です。
<参考:相続放棄の手続き方法|申請期限や流れなど詳しく解説>
3.相続放棄と代襲相続
(1)代襲相続とは
親が亡くなると、子は親の財産を相続します。
しかし、既に子が亡くなっている場合、その子(被相続人の孫)がいれば孫が代わりに相続します。
本来相続するはずだった人に代わってその子が相続することを「代襲相続」といいます。
代襲相続に該当する要件
・亡くなられた方の子が、相続開始前に死亡している。
・亡くなられた方の子が、相続開始前に相続放棄以外の理由(欠格事由・廃除)により相続権を失っている。
なお、亡くなった順番が明らかでない場合は、関係者は同時に死亡したとみなされます。
これを「同時死亡の推定」といいます。この場合も代襲相続は発生します。
(2)相続放棄でも代襲相続は起こるのか
親が亡くなった時点で子は生きているものの相続放棄をした場合、孫に相続権は移りません。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされるためです。
初めから相続人ではない者の子(被相続にとって孫)が、相続人になることはありません。
相続では代襲相続が起こり、下の世代に相続権が回ってくることがあります。
しかし、相続放棄をした場合には、代襲相続はないので、借金が回ってくることもありません。
(3)親の相続放棄後に祖父母の代襲相続はできるか
ちょっと複雑なケースです。
親が祖父母よりも先に亡くなり、親の相続を放棄した子が祖父母の相続(親を代襲相続)をすることができるのでしょうか。
親の相続において相続放棄をしているので、民法上は親の相続人でありません。
しかし、親の相続放棄をしていても、祖父母の相続については、親の代襲相続人となります。
民法887条では「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる」とされています。
つまり、「亡くなった方の子の子」であることが代襲相続の条件であり、死亡した子の相続人」である必要はないのです。
そのため、たとえ親の相続放棄をした子であっても祖父母の代襲相続人となるのです。
(4)再転相続について
再転相続とは、相続人が被相続人の相続をするかしないかを選択しないまま死亡してしまった場合に発生する相続です。
この場合、最終相続人は2人分の相続承認・放棄を決める必要があります。
ただし、1人目の相続と2人目の相続、それぞれについて、必ずしも自由に放棄と相続を選べるわけではないので注意が必要です。
下の表では、祖父と父親が亡くなり子どもが再転相続したケースを例に相続放棄の選択可否を示しました。
祖父の財産 | 父親の財産 | 選択可否 |
---|---|---|
相続 | 相続 | できる |
相続 | 放棄 | できない |
放棄 | 相続 | できる |
放棄 | 放棄 | できる |
再転相続人が父親の相続を放棄し、祖父の財産のみ相続することはできません。
父親の相続を放棄した場合、祖父の相続の相続人としての地位もなくなるので、祖父の財産は相続できなくなるのです。
父親に借金があった場合、父親の借金は相続せず祖父の財産のみ受け取りたいかもしれませんが、そういった対応は認められないので注意しましょう。
4.相続放棄を行うのが未成年の場合
相続放棄は、本来であれば各相続人が単独で行うものです。
しかし、未成年者は単独で自らの法律行為を有効に行うことができません。
そのため、未成年者が相続放棄をする場合は、法定代理人である親権者(両親)が代わりに行うことになります。
ただし、「利益相反」がある場合、親権者は未成年者の相続放棄手続きを代理することはできません。
たとえば、親権者は相続して未成年者のみが放棄する場合です。
この場合、親権者が自分の受け取る財産を増やすために、未成年者の相続放棄をしていると考えることもできるため、「利益相反」になってしまうのです。
利益相反の関係になった場合は、親権者にかわって未成年者の相続放棄を進める人を決めます。
この相続放棄を進める人を「特別代理人」といいます。
「特別代理人」を誰にするかは、家庭裁判所で許可をもらう必要があります。
ちなみに特別代理人の候補者については、未成年者と利害関係がなければ、基本的には誰でも構わないそうで、基本的に申立をする側が選びます。
どんな人が選ばれているかといいますと、未成年者のおじおば、祖父母などが選ばれる事が多いようです。
特別代理人は選任された後に未成年者の相続放棄手続きをすることになります。
参考記事:未成年者の相続放棄|利益相反と特別代理人の選任手続きを貼る
5.相続放棄の起算点はいつになるのか
相続の承認、又は放棄ができる期間(熟慮期間)は法律で決まっています。
民法915条では「自己のために相続が発生したことを知った時から3ヶ月以内に相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」とされています。
この「自己のために相続が発生したことを知った時」とは、相続人が被相続人の死亡を知り、かつ自分が相続人になったことを知った時です。
この時が、「起算点」になります。
6.相続放棄が行われた後、次順位の相続人に通知は自動的にされるのか
(1)次順位の相続人に通知はされない
先順位の相続人全員が相続放棄を行った場合、相続人の順位に変動が生じます。
借金が多い相続のケースでは、次の順位の相続人も早急に相続放棄を検討する必要があるでしょう。
しかし、先順位者である相続人の全員が相続放棄をしても、その事実を後順位者に通知する制度はありません。
また、相続放棄をした際に、そのことを後順位者に通知しなければならないという義務もありません。
そのため、自分が知らない間に相続人になっていたという状況もありえます。
先順位の相続人全員が放棄したことにより相続人になってしまった次順位の相続人の手続き期間は、「故人が亡くなった事を知った日から3ヶ月」ではなく、「先順位相続人全員の放棄の事実を知ってから3ヶ月」であるため、知った段階から慌てず手続き準備をすれば問題なく相続放棄の手続きは可能となります。
とはいえ、相続放棄をした際は、相続放棄をしたことを、後順位者の相続人へ伝えた方が親切です。
親族間の連携が重要です。
(2)相続放棄の申述受理の有無についての照会
先順位の相続人と交流が途絶えていたり、先順位の相続人が裁判所から通知してくれるものと思いこんでいたりする場合、相続放棄したことを知らせてくれない恐れがあります。
そういった場合には、家庭裁判所に対して「相続放棄申述の有無についての照会」をすることで他の相続人が相続放棄したかを知ることができます。
まとめ
被相続人に多額の借金があった場合、借金を相続しないために相続放棄をしなければならない人の範囲は、複雑なケースもあります。
無理に自己判断をせず、司法書士や弁護士などの専門家に相談をしてから検討されることをおすすめします。
相続放棄をする際は、その次の順位者に事情説明をしておきましょう。
相続放棄をしても、裁判所から次順位の相続人に連絡はされません。
次順位の相続人が債権者から請求を受けて思わぬ親族トラブルに発展してしまうかもしれません。
相続放棄手続きには期限が決まっています。
原則としてこの3ヶ月の熟慮期間内を過ぎてしまうと、相続放棄は難しくなります。
いざという時に慌てないためにも、ご自身が相続するのか、しないのかについて知っておき、準備しておくことが大切です。