相続放棄と自己破産|借金回避の方法について解説
亡くなったご家族や親族に多額な借金があった場合、相続人はその借金を必ず返済しなければならないのでしょうか。
借金を相続するなんてとんでもない、どうにかして返済義務から逃れたい、そう思う人も多いのではないでしょうか。
実は、「相続放棄」や「債務整理」といった法的手続きを利用することで、被相続人(亡くなった方)の借金から解放される可能性があります。
債務整理には、任意整理・自己破産・個人再生などがありますが、ここでは、債務整理の中でも、自己破産をピックアップし、相続放棄との違いについて解説いたします。
1.借金を相続することになった場合考えられる対策は?
被相続人に借金があり、それを相続すると、その借金は相続した人の借金となります。
しかし、法的な手続きをすることで借金の相続を防げる可能性があります。
その手段として挙げられる、「相続放棄」と「自己破産」の2つの制度について簡単にご説明します。
(1)自己破産
「自己破産」は破産法に基づき定められた手続きです
相続後に相続人が自己破産をすることで、その借金を帳消しにできます。
自己破産とは、借金返済の見込みがないことを裁判所に認めてもらい、借金の支払い義務を免除してもらう手続きのことです。
自己破産後は借金を返済する必要がなくなります。
自己破産のメリット
借金がすべて帳消しになり、債権者からの取立てが止まります。
相続した借金だけでなく、ご自身の借金からも解放されます。
※ただし、税金、国民健康保険料などは対象外になりますので注意が必要です。
自己破産のデメリット
・破産した事実が事故情報として個人信用情報センターに登録される。
7~10年程度の間、クレジットカードの利用や、金融機関からの借入れができなくなくなります。
・財産を処分しなければならない
価値のある財産は原則として手元に残しておくことはできません。ただし、99万円以下の現預金など、一定の財産は裁判所の許可を得ることにより残せる可能性があります。
・官報に公告される
自己破産をすると官報に公告されます。官報には氏名や住所も掲載されます。
そのため、自己破産したことを誰かに知られてしまう可能性があります。
・特定の職業に一定期間就けなくなる
自己破産をすると、一定期間は特定の職業に就けなくなります。
職業の制限を受ける期間は、ほとんどの場合において「破産手続開始決定から免責許可決定の確定まで」です。
免責許可決定が下されるまでは、およそ3~6ヶ月程度です。
以下に、制限を受ける代表的な職業を例示します。
士業(弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士など)
一部の公務員
企業の役員
その他職業(貸金業者の登録者、警備員、旅行業者、古物商、生命保険外交員など)
(2)相続放棄
次に相続放棄についてご説明します。
「相続放棄」は民法に基づき定められた手続きです。
相続放棄をすることで、借金の相続を回避できます。
相続放棄とは、相続人が遺産の相続を拒否する制度です。
相続開始(被相続人の死亡)があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述をして、受理される必要があります。
相続放棄をすると、被相続人の財産すべてを放棄することになります。
ここでいうすべてとは、借金やローンなどマイナスとなる負債だけでなく、預金や不動産などのプラスの財産も含みます。
相続放棄の手続きが終わってから「プラスの隠れ財産」が見つかっても、相続することができませんので、注意が必要です。
借金の相続から逃れる場合のほか、相続に伴うトラブルに巻き込まれたくないときなどに有効な手段です。
相続放棄のメリット
・被相続人の借金を返済する必要がなくなる
・相続争いに巻き込まれずに済む
相続放棄のデメリット
・すべての遺産を放棄することになる。
・他の相続人に影響がでる
※相続放棄をすることで、他の相続人の相続割合が増えたり、次順位の相続人に相続の権利が移り新たな相続人が発生したりします。
事前に説明をしておかないと、親族同士のトラブルに繋がる可能性があります。
2.自己破産と相続放棄の違いは?
被相続人(亡くなった人)に借金があった場合で、相続人がその借金を回避するには「自己破産」と「相続放棄」の制度があることをご説明してきました。
ここからは、この2つの制度の違いについて、詳しく解説していきます。
どちらも被相続人の借金から解放されるという点では、自己破産と相続放棄は共通しています。
ですが、それ以外の手続きや内容については自己破産と相続放棄は全く異なります。
(1)借金について
「自己破産」と「相続放棄」は、「借金の支払い義務がなくなる」という点では共通しています。
しかし、全く別の制度ですので効果や内容に関して異なる点があります。
自己破産の場合
相続した借金のほか、相続とは関係のないご自身の財産や借金も、破産手続きのなかで一緒に清算されます。
相続した借金とご自身の借金、どちらも帳消しになります。
ただし、税金・健康保険料等の滞納があった場合、それらの支払い義務は残ります。
相続放棄の場合
相続放棄をすると、相続人ではなくなりますので、被相続人の借金や負債も、もちろん承継しません。故人の債務に税金などがあった場合も破産と違い引き継ぐことはありません。
つまり、「自分の借金になる前に食い止める」といった効果があります。
ただし、ご自身にもともと借金があった場合は、ご自身の借金はそのままです。
(2)財産について
今、手元にあるご自身の財産が残るかどうかが変わってきます。
これは、相続放棄と自己破産との大きな違いです。
相続放棄の場合
相続財産は一切引き継げません。
借金はもちろん、不動産や預貯金などの財産も相続できなくなります。
しかし、ご自身の財産には何ら影響がありません。
相続財産は、ご自身の財産とは関係がありませんので、いま手元にあるご自身の財産はそのまま手元に残すことができます。また、死亡保険金など、法律上相続財産とされていない財産についても影響なく受け取ることが可能です。
自己破産の場合
自己破産をした場合、ご自身の財産も相続した財産も、どちらも返済に回す必要があります。
ご自身の財産、相続した財産は手元に残しておくことが出来ませんが、ご自身の借金も相続した借金もどちらも帳消しになります。
(3)税金等について
被相続人に滞納していた税金が存在する場合、「相続放棄」と「自己破産」で結果に大きな違いがあります。
自己破産の場合
自己破産では、税金や健康保険料の滞納等の支払い義務は免除されません。
そのため、税金などの支払義務を相続した場合には、たとえ自己破産をしたとしても、その滞納分を返済しなければならなりません。
相続放棄の場合
そもそも相続自体をしないため、滞納していた税金の支払義務も相続されません。
相続放棄をすれば、被相続人が税金を滞納していたとしても、相続人が支払う必要はありません。
(4)期限について
相続放棄には期限があります。
その期間は意外と短く、相続開始を知ったときから3ヶ月以内とされています。
この期間を熟慮期間といいます。この期間内に相続放棄を行わなかった場合は、相続を単純承認したとみなされます。
自己破産には期限はありません。
ご自身のタイミングで自己破産の申し立てを行うことができます。
3.どのようなケースで何を選べば良いか
置かれている状況によって、取るべき手続きは異なります。
最善の選択をするためにも、相続問題で判断に迷った場合は、早期に専門家へ相談することをお勧めいたします。
以下は、一般的な判断基準をご案内いたします。
まずは相続放棄から
相続放棄ができない、または既にご自身が借金を抱えている、などの事情がなければ、まずは相続放棄から考えましょう。
相続放棄をすることで、相続人ではなかったものという扱いになるので、不動産や預貯金などプラスの遺産を受け取ることはできませんが、借金などの債務も承継しません。これまで通りの生活を維持できます。
自己破産とは違い、ご自身の財産を失ったり、個人信用情報機関に事故情報が登録されてしまったりすることはありません。
相続放棄ができなかった場合の次の手段として、自己破産を検討するようにしましょう。
自分にも借金がある場合
ご自身も債務超過な場合には、自己破産を検討してもよいでしょう。
ただし、自己破産をすると価値の高い財産は差し押さえの対象となり、没収されてしまいます。
また、個人信用情報機関に事故情報が登録されるため、一定期間はクレジットカードの作成・使用や金融機関からの借り入れができなくなるなど、その後の生活に影響があります。
どうしても思い入れのある財産だけは手元に残したい場合
思い出のある家や土地だけは残しておきたいケースなどが該当すると思います。
こういったケースでは、限定承認という手段が有効です。
限定承認とは、故人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する手段です。
なお、限定承認は相続人全員の合意が必要となります。
被相続人に借金があるか不明な場合
被相続人に、プラスの財産・マイナスの財産がそれぞれどれくらいあるのか分からないケースがあります。
この場合も、限定承認という手段が有効です。
限定承認を利用することで、相続した財産分を限度として、借金などの債務を相続することができます。
生前対策としての自己破産
借金の相続問題は、相続人に限ったことではありません。
家族や親族に借金を残したくない場合には、生前対策として、自分が生きているうちに債務整理を行う方も増えています。
「立つ鳥跡を濁さず」の気持ちで、家族に将来負担をかけないように元気な内に対策を考えましょう。
4.プラスになる財産は本当にないか注意が必要
「相続放棄」と「自己破産」どちらを行うにしても、手続きをする際には、慎重な検討が必要です。
なぜなら、どちらの制度もある程度まで手続きが進んでしまうと、原則的に取り消し・撤回ができなくなるためです。
例えば、相続放棄後に借金以上の資産があったことが判明しても、やり直しができません。
損をしないためにも、本当に相続放棄をするべきか、プラスとなる財産が本当にないか、徹底的に調査してから手続きを行いましょう。
5.相続放棄をすると決めたときにやるべきこと
相続放棄をするためには、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内に裁判所に対して手続を行わなければなりません。
この3ヶ月は、実は意外にも短い期間です。
葬儀や四十九日などの法要に奔走していると、すぐに期限が迫ってきます。
手続きを確実に期限内に終わらせるために、早めに専門家に相談することをお勧めします。
ご自身での手続きも可能ですが、相続放棄は注意点が多い法律行為です。
専門家ではない人だけで判断をすると、誤った判断をしてしまうかもしれません。
ぜひ一度、専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めいたします。
また、相続放棄をするために、「してはならないこと」の確認も重要です。
例えば、相続財産を処分すると、相続放棄ができなくなってしまいます。
遺産の売却、遺産に関する契約を締結・解除などが該当します。
また、債務の弁済もケースによっては財産を処分した扱いになります。
形見分けも要注意です。
価値の高い品の形見分けを受けた場合、単純承認をしたものとみなされる可能性があります。この場合も、相続放棄ができなくなります。
相続放棄を検討されている場合は、高額な品の形見分けを受けないよう注意が必要です。
また、相続放棄をするのであれば、他の相続人にも影響がでます。
他の相続人の相続割合が増えたり、相続人ではなかった人が新しい相続人になったりします。
そのため、相続放棄をするのであれば、その旨をご家族や親族にも伝えるようにしましょう。
まとめ
「相続放棄」、「自己破産」という2つの制度のうち、どちらを利用するべきかは、それぞれのメリット・デメリットを把握してから検討しましょう。
まずは相続放棄から
相続により債務を負った場合には、まずは相続放棄から検討しましょう。
ブラックリストなどのデメリットを受けることなく債務を処理できる可能性があります。
自己破産は相続した借金だけでなく、自分の借金も帳消しにできるメリットがあります。
ただし、個人信用情報機関への事故情報の登録や、自己の財産を手元に残しておけないなど、デメリットも大きいので注意が必要です。