固定資産税の相続放棄はできる?|突然納税通知が届いた場合の対処法とは
「突然、固定資産税の納税通知書が届いて被相続人が所有していた不動産の存在を知りました。固定資産税を負担したくないので、相続放棄をしたいのですが、可能でしょうか?」
不動産に関する相続放棄の相談で、よくあるケースです。
この記事では、上記のような相続・固定資産税に関する悩みや相続放棄に関する疑問について、具体的なケースを見ながら解説してまいります。
また、相続放棄をした後になって固定資産税の納税通知書が届いた場合の対応方法、固定資産税の相続放棄のメリットとデメリットなどについても、なるべくわかりやすく触れていきます。
1.実家の土地建物、山林、田畑など土地の固定資産税の放棄はできるのか?
固定資産税の支払から逃れるために、実家の土地建物、山林、田畑の相続放棄をしたいというご相談を受けたときのエピソードをご紹介します。
Q.私は4人兄弟の三男で、農業を営んでいた父親は5年前に亡くなりました。
私は若くして上京し、あまり帰省はしていませんでした。
父親の相続財産は僅かなお金と、買い手の到底付きそうにない実家の土地建物、山奥の山林や田畑などがあったようですが、なにぶん実家を出てしばらく経つため、詳細はよく知りませんでした。
また、長男である兄が稼業を継いでおりましたので、そういった事は全て兄に一任している状況でした。
しかし、相続手続きは未完了のまま何年間も放置してあったらしく、十数年経ったある日、私の元に町役場から固定資産税の納税義務承継通知書が届きました。確認したところ、固定資産税の滞納がありその金額が100万円を超えていました。私は、遠方に住んでいる為に、実家の土地建物や山林、田畑を必要としていませんし、財産自体もいらないと考えています。
その固定資産税の支払から逃れるために、不動産の相続放棄をしたいと考えていますが、この場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。
(1)相続放棄をする
1つめは、お父さんの相続について相続放棄することです。
家庭裁判所に相続放棄の申述(申し立て)をする方法となります。
ただ、通常の申し立て期限である、(父が)亡くなってから3ヶ月を大幅に超えた後での申し立てになるため、認められるかどうかは裁判所の判断次第になり、相続放棄を認めてもらいやすい申述書をつくる事が重要です。そのため、専門家に依頼したほうが良いかと思います。
(2)遺産分割協議を行い、他の相続人に権利を譲る
2つめは、お父さんの遺した実家の土地建物や山林や田畑は要らないという意思表示をして、相続人(兄弟)間で遺産分割協議書を作成して、他の相続人(兄弟)に譲る方法です。
ただし、相続人全員の合意が必要になるため、相続人の関係性によっては、話し合いがまとまらない、長期化するといった事が懸念されます。
また、あくまでも原則は遺産分割協議が成立するまでに発生した固定資産税については各相続人に納税義務がありますので、市町村から請求された場合には支払わなくてはなりません。したがって、遺産分割協議においては、権利を譲り受ける相続人が、協議前の固定資産税を含めて負担することについて、協議案として盛り込むことを検討するようにしましょう。
とにかく一番まずいのは、何もしないまま放置することです。
手続きをせず放置している間に、相続人のひとりがさらに亡くなってしまうと、その相続人に対して新たに相続が発生することになります。たとえば、相続人の兄弟が死亡した場合ですと、その妻子が新たに共有者として入ってくるため、非常にもめやすい状態となります。
また、今回のケースでは、どうやら相続人のどなたも固定資産税を払っていらっしゃらないようですので、今の状態が続くと、役所は相続人の資産から税金の回収を図るため、ご自身の給与や自宅が差し押さえられ、最悪の場合、自宅を失うことになったりする可能性も出てきます。
このようなことになってからでは大変です。
まずは、お早めに相続問題に詳しい相続放棄相談センターの専門家にご相談ください。
2.固定資産税の納税義務者は誰なのか
固定資産税の納税義務者は、原則として毎年1月1日(賦課期日)現在に土地・家屋・償却資産を所有している人です。
年度の途中で所有権移転があっても、1月1日時点の所有者に1年分の納税義務があります。
所有者として登記されている人が賦課期日前に死亡した場合には、1月1日時点で土地や建物を相続した相続人が納税義務者となります。
3.固定資産税を相続放棄した場合のメリットとデメリット
(1)メリット
固定資産税の支払いや不動産の管理義務など、負担が大きい遺産の相続を回避できます。
不動産は、所有しているだけで固定資産税を毎年支払う必要があります。
更に、使っていなくても、適切に管理・維持する義務が生じます。
相続放棄をすることで、このような費用負担や手間から解放されます。
また、被相続人に借金や滞納していた税金があった場合には、借金の支払い義務から解放されます。
(2)デメリット
相続放棄をすると、不要な土地や借金、滞納していた税金だけでなく、すべての財産を相続することができなくなります。
遺産の中に価値のある土地や建物・預貯金や株式があっても、相続放棄をした場合はこれら一切を放棄することになりますので、遺産の総額によっては放棄しない方が良いケースもあります。
また、相続放棄をすると原則的に取り消し・撤回することができません。
相続放棄をしたあとになってから、価値のある遺産が見つかったり、気が変わって相続したくなったりしても、やりなおしはできません。
4.固定資産税を放棄するか悩む!ケース別での解説
(1)相続放棄をした場合、土地の固定資産税の支払い義務はあるのか
相続放棄をした場合には、土地や建物の所有者にはならないため、本来、固定資産税の納税義務は発生しません。
しかし、相続放棄をしたにもかかわらず、固定資産税を負担しなければならないケースはあります。
固定資産税は毎年1月1日時点で所有権者が支払わなくてはなりません。
しかし、登記簿上の所有者が亡くなっている場合には市区町村が独自に調査を行って所有者が推定されます。
法定相続人はここで市区町村に相続人だと推定され、市区町村が管理する固定資産課税台帳に登録されます。
1月1日時点でこの固定資産税課税台帳に登録されている場合、固定資産税の納税義務が発生してしまいます。
相続放棄などの事情に関わらず、1月1日で固定資産課税台帳に登録されている人に課税するこの考え方を台帳課税主義といいます。
こう考えることができます。
相続開始後、年内に相続放棄が完了した場合 → 固定資産税の支払い義務はない
相続開始後、年を跨いで相続放棄が完了した場合 → 固定資産税の支払い義務がある
(1月1日時点では相続放棄が完了しておらず、固定資産税課税台帳に登録されているため)
相続放棄後に固定資産税を請求された場合の対策・対応方法
①いったん立替払いをして、後から求償をおこなう
固定資産税の納税通知が届いた場合には、たとえ相続放棄をした場合であっても、固定資産税を納付しなければなりません。
支払わなかった場合、財産の差し押さえに至るケースもあるので要注意です。
こうして支払った固定資産税は、実際に相続した人に固定資産税相当額を求償することが可能です。この権利を「求償権」といいます。
②登記名義の変更を行う
翌年以降に固定資産税の納税通知書が届かないようにするため、登記名義の変更(所有権更正登記または所有権抹消登記)を行いましょう。
(2)滞納している固定資産税を相続放棄するのは可能か
結論からいうと可能です。
被相続人が亡くなる前に滞納していた固定資産税は相続の対象であるに過ぎません。
そのため、相続放棄をすることで、被相続人が死亡前に滞納していた固定資産税の納税義務はなくなります。
相続をする場合には、滞納していた固定資産税は納付しなければなりません。
その場合、延滞金がかかってしまうので早めに納税を済ませた方が得策です。
なお、固定資産税の請求は、被相続人の死後、かなりの時間が経ってから届くことがあります。
固定資産税の請求を機に相続放棄をしたいと考えた場合、相続放棄の申請期限(相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内)を超えてしまっていることも多いかと思います。
亡くなってから3ヶ月を超えている場合には、期限越えの相続放棄手続きの実績が多数ある専門家への依頼がおすすめです。
期限越えの相続放棄手続きは事務所によっては依頼を断られてしまうような難易度の高い事例です。
専門家が裁判所へ現状や経緯を丁寧に説明しないと却下されてしまうこともあります。
一度却下されてしまうと再申請はできません。
(3)先祖の土地を相続放棄できるのか
ご先祖の名義のままになっている土地は相続放棄できるのでしょうか。
こういったケースの場合、相続が発生した際に、相続放棄で土地を手放すという選択ができます。
ただし、相続放棄をすると、土地以外の財産もすべて相続できなくなります。
他の財産は相続して、不要な土地や建物の相続だけを放棄することはできません。
なお、ご先祖の名義のままになっている不動産は、そのままにしていると後々問題が生じるかもしれません。
ご先祖の名義のままでは抵当権の設定や売却ができませんので、その不動産を利用・売却する場合は名義変更(相続登記)が必要です。
不動産の相続登記は、専門家に相談を
こういったケースでは、ご先祖の代からの相続関係の証明が必要となります。
古い名義であれば、相続人は雪だるま式に増え、権利関係が複雑になっています。
遠縁の親戚にあたる相続人を調査し、面識のない親族と話し合いが必要となる場合もあります。
放置するほど子孫に迷惑がかかりますので、相続が発生した際は速やかに登記を完了させることをおすすめいたします。
5.相続・固定資産税に関する悩みや相続放棄は専門家に相談するべきか?
相続放棄や登記の手続は自分でも出来ますが、確実に進めるためには専門家に相談するべきです。
専門家に依頼をすることで、ご自身の主張が認められる可能性を高くすることができます。
特に、相続放棄はチャンスが一度しかありません。
ご自分で相続放棄手続きをして、失敗したので専門家に頼もう、といったことはできません。
相続放棄などの手続きには、法律の専門知識が必要になります。知識の無いまま判断し、手続きを進めるのは危険です。
専門家は、以下のような相続の悩みも的確に解決してくれます。
・相続関係が複雑な場合
・本当に相続放棄するべきかの判断
・相続財産の全体像の調査
・必要となる書類が不明
・法務局が遠方にあり自分で手続きするのが大変
・土地を売却するので相続登記を急ぐ場合
・親族その他、周りに迷惑をかけたくない
また、固定資産税には、さまざまな軽減税率や優遇措置もあります。
固定資産税の負担を軽減させることで相続放棄をせず、不動産を有効利用できる道があるかもしれません。
こういったものを有利に利用するにも、専門家は強い味方です。
相続のお悩みはぜひ、司法書士や弁護士などの専門家に相談してみてください。
6.専門家に依頼するとどのくらいの費用がかかるのか?
通常の相続放棄の手続き関係を専門家に依頼すると、相場は3~10万円程度です。
相続開始から3ヶ月を超えている相続放棄の手続きなど、難易度の高い依頼によっては10~20万円以上がかかってくる場合もあります。
また、登記の名義変更を司法書士に依頼する場合は、費用の相場は1件あたり6万~10万円程度です。
手続きの内容や難易度によって違いが出てきますので、正確な費用は各専門家の事務所に問い合わせが必要です。
なお、弁護士事務所よりも司法書士事務所の方が費用を抑えられる傾向にあります。
相続人同士で争いがない場合には、司法書士への依頼がおすすめです。
7.専門家に依頼するとどのくらいの期間がかかるのか?
通常の相続放棄であれば、申立てから受理されるまでにかかるのは約1ヶ月程度です
手続きの内容や難易度によって違いが出てきますので、期間についても各専門家の事務所に問い合わせが必要です。
8.相続放棄をする場合の固定資産税に関する注意点
固定資産税を相続財産から支払ってはダメ!
相続放棄をする場合、固定資産税を遺産から支払ってはいけません。
相続人が相続財産の一部でも処分してしまうと、相続の単純承認をしたとみなされ、相続放棄をすることができなくなってしまいます。
相続財産にかかる税なので相続財産から支払いたくなってしまいますが、安易に相続財産から支払いをするべきではありません。
年を跨ぐ相続放棄に注意!
相続放棄をすれば、原則として固定資産税を支払う必要はありません。
しかし、相続放棄のタイミングによっては、相続放棄をしたにも関わらず固定資産税を支払う義務を負う可能性があります。
まとめ
固定資産税の請求を機に土地の存在を知り、相続放棄を考える場合は相続放棄の申請期限を超えているケースが多いです。
こういった被相続人が亡くなってから3ヶ月を超えているケースでは、期限越えの相続放棄手続きの実績が多数ある専門家へ依頼しましょう。
一度却下されてしまうと再申請はできませんので、経験の乏しい専門家に依頼するのは避けた方がよいでしょう。
相続放棄をしていても、固定資産税の納税通知が届いてしまうケースがあります。
この場合、納税義務を免れるのは困難です。期日までに税金を納めなければなりません
しかし、相続放棄をしているのであれば、本来は負担する義務はないので、支払った固定資産税は真の所有者に対して求償することができます。