相続放棄で借金は消滅しない!他の親戚に取り立てが行くことも
亡くなったご家族が借金をしていたことが発覚した場合に「相続放棄」の手続きを検討される人は多いと思います。
相続放棄をすると借金を支払う必要はなくなりますが、イコール借金が消滅するわけではありません。相続放棄とはなにか、相続放棄をするとどうなるのか、などの仕組みをきちんと理解せず相続放棄を進めてしまうと、おじやおば、いとこなどの親戚とトラブルに発展してしまう可能性があります。
この記事では相続放棄の仕組みと、相続放棄をするときの守るべきマナーと注意点について解説します。
【目次】
1. 相続放棄をしても借金がなくなるわけではない!
故人の借金を相続しないために、「相続放棄」という手続きを選択する人はたくさんいらっしゃいます。しかし、相続放棄はあくまであなたが相続権を放棄する手続きであり、故人の借金を清算する手続きではありません。
ここでは、相続放棄をしたら借金はどうなるのか、親戚に借金があった事実を知られたくない場合はどうすればいいのかを解説します。
(1) 相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産を含めて一切の相続権を放棄することをいい、相続放棄をすると、その人は「はじめから相続人ではなかった」ことになります。
その結果、放棄した人以外にも相続人がいる場合は、残された相続人の法定相続分が増えることになります。放棄した人が、唯一の相続人であった場合は、次の順位の相続人に相続権が移ることになります。例えば、被相続人の子供が相続放棄をした場合は、亡くなった人の両親に相続権が移ります。
相続放棄を検討する場合は、あなたが相続放棄をすることによって相続人になる人へ、事前に連絡や説明をしておくことが大切になります。
(2) 相続放棄をすると次の相続人に順位が移る
前項で少し触れましたが、相続人には順位があります。配偶者は常に相続人となるため、相続放棄をすることによって順位が変わることはありませんが、子供や両親などは相続放棄をすることによって、順番に相続権が移っていきます。
例えば、被相続人に子供が2人いた場合
・子供の内1人だけ相続放棄をした
…もう一方の子供だけが相続人となり、次の相続人に相続権が移ることはありません。
・子供2人とも相続放棄をした
…第一順位となる相続人が誰もいなくなってしまうため、第二順位の親や祖父母などの直系尊属へ相続権が移ります。第二順位の相続人がすでに亡くなっているか、全員相続放棄をした場合は第三順位の兄弟姉妹や甥・姪に相続権が移ります。
<参考:相続放棄と相続人の順位|相続人の範囲と手続きを進める手順とは>
被相続人が借金をしていたことが発覚し子供が相続放棄をした場合、お金を貸した人(債権者)は次の相続人を探して、借金の返済を求めてきます。つまり、被相続人の両親や兄弟に、突然、督促状が届いてしまう可能性があるのです。
通常の相続では、子供がいた場合、親や兄弟は相続人にはならないため、相続放棄をした事実を知らせていなければ、予期せぬ請求や督促に驚いてしまいますし、「借金を押し付けられた!」と憤慨されるケースも珍しくありません。
特に子供の立場で相続放棄をされる場合は、次に相続人になってしまう人に対して事前に連絡を入れておき、突然借金を知ることにならないよう対策をしておきましょう。
(3) 親族全員で相続放棄をすることができる
被相続人に借金があった場合に、親族全員が相続放棄をすると、誰もその債務の責任を取らないことになり、道義に反するという気持ちになり相続放棄が認められないのではないかという疑問が浮かぶかもしれません。
しかし、相続放棄をするかどうかは他の相続人に関係なく、個々人が単独で決めることができます。
自身を含め、自身の次に相続人となってしまう親族全員が相続放棄をすることにより、相続人が1人もいなくなってしまうからといって法律上は全く問題ありませんので、多額の借金が発覚した場合などは、親族全員で相続放棄するのが賢明といえるでしょう。
(4) 故人に借金があったことを親戚に知られたくない場合
では、被相続人が借金をしていた事実を親戚に知られたくない場合は、どのように対処すればよいでしょう。「自分の父や母が多額の借金をしていた」という事実は、やはり親戚には知られたくないとお考えの方もいらっしゃると思います。
しかし、前述したように債権者は本来の相続人が相続放棄をしたことを知ると、次の順位の相続人に対して、請求や督促をすることになります。そうすると、自動的に親戚に借金の存在がばれてしまうことになります。
これを回避するためには、相続放棄ではなく、「限定承認」という手続きを検討されることをおすすめします。
限定承認という手続きは、相続手続きではありますが、単純承認(プラスもマイナスもすべて相続)とは違い、多額の借金があっても被相続人のプラスの財産の範囲で弁済すればよく、返済しきれなかった負債について相続人の財産から支払う必要はありません。
また、相続放棄とは異なり、相続人として手続きを進めますので、次の順位の相続人に相続権が移らないことになり、親戚に借金の存在が知られることはありません。
ただし、限定承認は一見いいことずくめの手続きに思えますが、手続きが煩雑だったり完了するまでに時間がかかるなどのデメリットもありますので、相続放棄と限定承認それぞれのメリットとデメリットを比較、検討して方針を決められるとよいでしょう。
2. 相続放棄の手続き方法
相続放棄の手続きには期限があり、「相続の開始を知った日」から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。この期間を熟慮期間といいます。
「相続の開始を知った日」とは、通常、被相続人が亡くなったことを知った時点になりますが、先順位の相続人がいた場合は、先順位相続人の全員が相続放棄をしたことを知ったときになります。ご自身の相続人としての順位に注意いただき、熟慮期間内に手続きを進めるようにしましょう。
(1) 家庭裁判所に申し立てを行う
相続放棄の申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出して行います。(必要書類は次項をご覧ください。)
必要書類をしっかりそろえて提出すると、数日後、家庭裁判所から「照会書(回答書)」という書面が送られてきます。この書類は、申し立てをした人が「本当に自分の意思で相続放棄をするのか」や、「なぜ相続放棄をすることになったのか」などを裁判所が確認するための質問状です。
回答期日が設定されていますので、期限内に回答書に記入し提出します。
申し立ての内容や、照会書の回答内容に問題点がなければ、数日後に「相続放棄申述受理通知書」という書面が届きます。この書類が届けば、相続放棄が認められたことになります。
「相続放棄申述受理通知書」は再発行できませんので、なくさないように手元に保管するようにしてください。
※もしもなくしてしまった場合は、相続放棄受理証明書を取得すれば問題ありません。
<参考:相続放棄の手続き方法|申請期限や流れなど詳しく解説>
(2) 相続放棄の必要書類
相続放棄の申し立てに必要な書類は、一般的に以下の書類となりますが、申請する家庭裁判所や相続関係によって異なるケースがありますのでご注意ください。
● | 相続放棄申述書(収入印紙800円分を貼付します) …家庭裁判所のホームページからダウンロードが可能です。 |
● | 被相続人の住民票除票または戸籍の附票 |
● | 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本 |
● | 連絡用の郵便切手 |
※ | その他相続関係を証明する戸籍謄本 |
被相続人との続柄によって必要となる戸籍が異なります。
自分より先に申し立てを行った人がおり、既に提出されているものは改めて提出する必要はありません。
<参考:相続放棄の必要書類はなに?|手続きのケース別に解説>
(3) 相続放棄にかかる費用
相続放棄の手続きにかかる費用は下記のとおりです。
● | 申述人1人につき収入印紙800円(相続放棄申述書に貼付します) |
● | 連絡用の郵便切手(84円5枚、10円5枚程度。詳細は申述先の家庭裁判所に確認してください) |
● | 戸籍謄本の取得に係る手数料・郵送費 |
● | 戸籍謄本の取得に係る手数料・郵送費 |
当事務所にご依頼いただく場合は、上記の費用は相続放棄のサービスプランに含まれています。(※お助けプランを除く)
(4) 相続放棄が認められたら債権者に連絡しましょう
相続放棄が無事認められると、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
借金を理由に相続放棄を行った場合でも、家庭裁判所が債権者に連絡してくれるわけではありませんので、債権者はあなたが相続放棄をした事実を連絡しない限り知ることができません。
債権者への連絡を怠ると、いつまでも請求書や督促状が送られてくることになります。相続放棄が受理されたら、各債権者に連絡してあげましょう。
一般的な債権者(役所、金融機関、消費者金融など)であれば、「相続放棄申述受理通知書」のコピーを提出すれば、納得してくれますので速やかに対応するようにしましょう。
残念ながら債権者の中には、相続放棄についての知識が乏しい個人債権者などもいますので、連絡をすることで「なぜ放棄なんかするのか」「だれが借金を返済してくれるのか」など責め立てられてしまうケースもあります。債権者へ連絡するのか怖い、気が引けるなどの場合、私どもの事務所ではお客様の代わりに債権者へ相続放棄の通知をするサービスも行っておりますので、お困りの際はご相談ください。
3. 相続人全員が相続放棄をしたら借金はどうなる?
相続人となり得る親族全員が相続放棄をした場合、相続人が1人もいないことになります。冒頭で触れたように、相続放棄という手続きは借金を消滅させる手続きではありませんので、借金自体は残っている状態ですが、相続人はだれもいませんので連帯保証人がいれば連帯保証人が借金を返済することになります。
相続財産が多少なり残っている場合、債権者は家庭裁判所で「相続財産清算人(旧相続財産管理人)」を選任してもらう手続きを行うこともできます。相続財産清算人(旧相続財産管理人)が選任されると、被相続人の財産を調査し、残っているプラスの財産をもって、債権者へ返済を行います。複数の債権者がいる場合は、財産を均等に分配して返済します。
しかし、この申立てには30万~100万円程度の予納金を収める必要があるため、予納金や申立費用以上の金額を回収できないと判断すると、債権者もこの手続きを取ることはないでしょう。
被相続人の借金について連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしてもその債務からは逃れることはできませんので注意が必要です。
4.借金がなくても相続放棄はできるの?
ここまでは、被相続人に借金があった場合の相続放棄について解説してきましたが、借金以外の理由では相続放棄ができないのか、疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
例えば、被相続人と不和だったり、長年疎遠で一切関わりあいになりたくない、相続人になることに抵抗があるという方もいらっしゃいます。また、特定の相続人に遺産をまとめたいなどの理由から相続放棄を検討される方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合でも、相続放棄をすることは可能です。実際に、相続に関わりたくないからという理由で当事務所に相談にこられる方は珍しくありません。
ただし、家庭裁判所で手続きを進めるためには、相続放棄をする理由を伝えなくてはなりません。家庭裁判所のホームページにある相続放棄申述書にも「放棄の理由」を記載する箇所があり、あらかじめ以下の項目が記載されており、該当する理由を選択する様式になっています。
1 | 被相続人から生前に贈与を受けている。 |
2 | 生活が安定している |
3 | 遺産が少ない |
4 | 遺産を分散させたくない |
5 | 債務超過のため |
6 | その他 |
上記の1~5の選択肢に該当するものがなければ、6その他の欄に具体的理由を記載し、申し立てをするようにしましょう。
5.相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚したら?
2項で解説したように、相続放棄は「相続の開始を知った日」から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
しかし被相続人が亡くなった時点では借金は見当たらず、相続放棄をしていなかった場合でも、数か月後、数年後に借金が発覚するケースは少なくありません。
当事務所にも、申し立ての期限を過ぎているが、多額の借金があることが分かったので相続放棄できないかと、ご相談にこられる方はたくさんいらっしゃいます。
このような場合でも、例外的に相続放棄が認められることがあります。ただし、後から借金が見つかったからといって、簡単に認められるわけではなく、期限までに相続放棄をしなかったことに「特別な事情」があったことを、家庭裁判所に説明しなくてはなりません。
しかし、相続放棄の申し立てができるのは一度きり、失敗してしまうと相続放棄が認められなくなってしまいます。法律の知識に明るくない素人判断で手続きを進めてしまうのは大変危険です。もし、相続放棄の期限を過ぎてから借金が発覚した場合は、司法書士や弁護士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。
<参考:相続放棄の期限を超えてしまった|認めてもらう手続方法とは>
6.まとめ
相続放棄をすれば、被相続人の借金から逃れることができますが、その借金の返済義務は残された相続人や次の順位の相続人に移っていきます。相続放棄はご自身の判断だけで進めることができますが、借金を理由に相続放棄をするときは、次に相続人となり得る人に事前に連絡してくことが大切です。
次の相続人にどのように事情を説明すればよいか分からない、直接連絡したら文句を言われるかもしれないとご不安な場合は、当事務所でご連絡を代行させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。