相続放棄の手続き期間はいつまで|期限を延ばす伸長手続きと期限切れの対応方法について解説
「相続放棄」という手続きは、以前はあまり一般的に知られた手続きではありませんでしたが、近年ではニュースやWEBサイトなどで取り上げられるようになり、現在では約23万件もの手続きが取られるようになりました(令和2年度司法統計から)。
しかし、相続放棄という言葉を聞いたことがあっても、実際にどのような手続きをすれば良いのか、いつまでに手続きをしなければいけないのかなど、まだまだ具体的な事を知らない方はたくさんいらっしゃると思います。
この記事では、相続放棄の手続き期間や、期限に間に合いそうにない場合にはどのような対応をしなければいけないのかを解説いたします。
1. 相続放棄ができる期間はいつからスタート?
相続放棄の手続きができる期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」とされており、この3カ月の期間を熟慮期間と言います。相続人はこの3カ月の間に、相続するのか相続放棄をするのかあるいは限定承認をするのかを選択し、手続きを進める事になります。
よく故人(被相続人)の死亡した日を起算点として、そこから3カ月以内だと勘違いされがちですが、亡くなった事実を知らなければ、この3カ月はスタートしません。
例えば、何らかの事情で故人(被相続人)と疎遠状態にあり、遠く離れた場所で暮らしている場合などは、実際に死亡したことを知るまでにタイムラグが発生することがあります。このような場合、「相続の開始があったことを知った時=死亡の事実を知った日」が死亡日の数日後や数カ月後になる可能性もあります。亡くなってから3カ月を経過していても、亡くなったことを知った日から3カ月以内であれば相続放棄の手続きは可能です。
詳細は後述しますが、亡くなったことを知った日から、すでに3カ月が経過している場合でも事情によっては相続放棄が受理される(認められる)場合があります。
<参考:相続放棄の手続き方法|申請期限や流れなど詳しく解説>
2. 期限内に手続き方法を選択する
相続の開始を知ったら、故人の遺産が多い少ないにかかわらず、3カ月以内に相続手続きについてどうするか検討しなくてはなりません。
相続手続きの選択肢としては、
- ・故人のプラスの財産とマイナスの財産のすべての財産を相続する単純承認
- ・故人のプラスの財産とマイナスの財産のすべての財産を放棄する相続放棄
- ・故人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する限定承認
の3つの選択肢があります。
単純承認をする場合は、申し立ての必要はありませんが、相続放棄や限定承認をする場合は熟慮期間の3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。また、この3カ月の間に相続放棄や限定承認の申し立てをしていなければ、自動的に相続(単純承認)したことになります。
ここでは、上記のような選択肢があるなかで、どのようにして手続き方法を選択すべきかを解説します。
(1)財産内容を把握しましょう
以前から、相続放棄の手続きをすると決めていらっしゃる方は判断に迷うことはないかと思いますが、そうでない場合は故人の財産内容によって、手続き方法を検討しなくてはなりません。しかし遺産の内容が分からなければ、相続してもよいのか放棄すればよいのか判断ができないので、まずは、下記のように故人の身の回りにある資料を確認しどのような財産があるのかを調べてみましょう。
プラスの財産 | |
---|---|
財産の種類 | 確認方法 |
不動産 | 固定資産税の通知書、不動産の権利証、名寄帳の取寄せ請求 |
預貯金等 | 預金通帳やキャッシュカード、金融機関に問い合わせ |
株式等有価証券 | 株券、株主への配当金通知、証券会社へ問い合わせ |
貴金属、自動車等の動産 | 自宅や別荘、貸金庫等 |
マイナスの財産 | |
---|---|
財産の種類 | 確認方法 |
借金 | クレジットカード、請求書、銀行振替の案内等 |
未払い税金 | 納付書、督促状、役所に問い合わせ |
入院費、治療費 | 病院に問い合わせ |
保証債務 | 故人宛ての手紙、契約書 |
(2)手続きの選択を行う
財産調査を行ったら相続方法を決めましょう。どの手続きを選択するか、検討するポイントは主に下記のようなものです。
- ・プラスの財産とマイナスの財産を比較した結果
- ・自宅不動産など手放したくない財産の有無
- ・将来価値が上がりそうな財産の有無
- ・故人が経営していた事業を承継するかどうか
特に相続したいプラスの財産がなく、明らかにマイナスの財産が多いという状況であれば「相続放棄」を選択したほうがよいでしょう。ただし、相続放棄は一度認められてしまうと原則撤回ができません。相続放棄をすることによるメリットやデメリットがあるので、しっかりと検討したうえで手続きを行うことをお勧めいたします。
借金はあるが引き継ぎたい財産がある、相続放棄をすることで他の親族に迷惑をかけたくないなどの場合は限定承認という手続きを検討いただいてもよいかと思います。
<参考:相続放棄と限定承認の違い>
3. 期限内に判断できないときは熟慮期間の伸長(延長)が可能
故人と疎遠だったり、住まいが離れているなどの理由で財産調査に時間がかかってしまい、3カ月の熟慮期間中に相続方法が決められないケースもあります。そのような場合、家庭裁判所に申し立てを行うことで熟慮期間を延長することも可能です(相続の承認又は放棄の期間伸長)。
ただし、期間伸長手続きも相続の開始を知った日から3カ月以内に申請をしなければいけませんので、財産調査に時間がかかりそうな場合や、相続について考える時間が欲しい場合は早めに準備を行い、速やかに期間伸長の手続きをしましょう。
(1)熟慮期間の伸長 家庭裁判所での手続き
期間伸長の手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。<参考:家庭裁判所ホームページ 裁判所の管轄区域>
必要書類を提出すると、後日家庭裁判所から「照会書(回答書)」という書面が送られてきます。これは、本人の意思で申し立てがされたのか、伸長する期間や理由などを裁判所が確認するための質問状です。回答期限が設定されていますので、期限内に回答書に記入し返送します。およそ1週間から2週間程度審理の期間があり、申し立ての内容に問題がないと裁判所が判断すれば期間の伸長を認める内容の「審判書」が届きます。
ただし、申し立てをしたからといって必ず認められるわけではありません。仕事が忙しいという理由では認めてもらえません。財産内容が複雑で調査にあとどれくらい時間がかかるかなど、客観的な理由を申立書に記載しておくことが重要です。
申立書の書き方や作成方法に不安がある方は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
(2)期間伸長手続きに必要な書類
相続の承認又は放棄の期間伸長を家庭裁判所に申し立てるには以下の書類が必要になります。
- ・家事審判申立書(収入印紙800円分を貼付します)
- …家庭裁判所のホームページからダウンロードが可能です
- ・被相続人の住民票除票または戸籍謄本
- ・伸長を求める相続人の戸籍謄本
- ・被相続人との相続関係が分かる戸籍
※申立人と被相続人の関係性に応じて、別途資料が必要となる場合があります。詳しくは家庭裁判所にお問い合わせください。
<参考:家庭裁判所ホームページ 相続の承認又は放棄の期間の伸長>
(3)申し立てにかかる費用
期間伸長手続きにかかる費用は下記のとおりです。
- ・申立人1人につき収入印紙800円分(申立書に貼付します)
- ・連絡用の郵便切手(84円5枚、10円5枚程度。詳細は申述先の家庭裁判所に確認してください)
- ・戸籍謄本の取得に係る手数料・郵送費
ご自身で手続きすることにご不安な場合や、平日はお仕事でお忙しい方など、当事務所にて期間伸長手続きをご依頼いただくことも可能です。
4. 注意!熟慮期間中でも単純承認とみなされるケース
熟慮期間中でも、一定の条件を満たすことで自動的に「相続した=単純承認した」とみなされてしまうケース(法定単純承認)があるため注意が必要です。
民法921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私(ひそか)にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
上記は条文を引用したものですが、これだけ見てもどういうことが書いてあるのか分かりづらいかもしれませんので、単純承認したとみなされる行為について具体例を紹介いたします。
(1)遺産分割協議を行った場合
特に注意していただきたいのは「遺産分割協議」です。私どもにご相談をいただく方の中にもいらっしゃいますが、相続放棄の手続きと勘違いし署名押印をしてしまったというケースがあります。
遺産分割協議とは被相続人の遺産の分け方を相続人同士で決めるためものであり、「分割協議に参加した=自分が相続人であるという事を認めた」ことになります。たとえ「相続財産は一切受け取らない」という内容であったとしても単純承認したとみなされてしまう可能性が高いのでご注意ください。
(2)遺産を売却してしまった場合
故人が所有していた車やブランド品など財産価値のあるものを、もう誰も使わないからといって売却してしまうと、条文にある「処分」行為に該当し単純承認したとみなされてしまう可能性が高くなります。
財産価値があるかどうかは、素人では判断できない場合があるので安易に処分しないことをお勧めします。
(3)熟慮期間内に何も手続きをしなかった場合
相続人が「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3カ月以内に限定承認または相続放棄をしなかった場合は、自動的に単純承認したとみなされてしまいます。「仕事が忙しくて手続きができなかった」や「相続放棄という制度があることを知らなかった」という理由は通用しません。
熟慮期間中に判断ができそうにない場合は、事前に期間伸長の申し立てをしておきましょう。
(4)故人の預金を自分のために使ってしまった場合
仮に相続放棄が認められた後であっても、被相続人の預貯金などを自分のために使用してしまった場合は単純承認したものとみなされてしまいます。
被相続人に多額の借金があり、預貯金を使用した事実が債権者に知られると、支払いを要求されたり、その相続放棄が無効であると裁判を起こされてしまう場合もありますのでご注意ください。
5.手続き期限の3カ月を過ぎてしまった場合
ここまで、相続放棄の期限は相続の開始を知ってから3カ月以内に行わなければいけないと説明してきましたが、亡くなったことを知ってから3カ月経過してしまっても、絶対に相続放棄ができないわけではありません。
例えば、被相続人にはプラスの財産もマイナスの財産も何もないと思っていたら、数カ月後に債権者から借金の督促状が届いたというご相談はよくある話です。実際に、私どもの事務所にもそういったご相談をたくさんいただいております。
このような場合、3カ月の熟慮期間を過ぎていても例外的に相続放棄が認められるケースがあります。ただし、家庭裁判所に認めてもらうにはしっかりと事情を説明しなければならず、専門的な知識と経験が必要です。
もし、相続放棄の期限を過ぎてしまっても、ひとりで悩まずに専門家に相談してみましょう。相談することで解決の糸口が見つかるかもしれません。
<参考:【3ヶ月期限後の相続放棄】>
6.まとめ
仕事をしていたり、子育て中だったりすると3カ月はあっという間に過ぎてしまいます。相続放棄は申し立ての期限を過ぎてしまうと認めてもらうのが非常に難しくなるため、期限内に申し立てを行うか、熟慮期間の伸長手続きを行うようにしましょう。
また、相続放棄の手続きを予定している、または検討している場合は、単純承認とみなされる行為に注意してください。
手続きに迷っている場合や相続に不安がある場合は、早めに専門家に相談することで、解決策を見いだせるかもしれませんので、お気軽にご相談ください。